作品制作時に対面する課題に、「どこまで手を入れたら完成するか」があります。
これがなかなか難しいですよね。
作品はどこまででも手を入れることが可能なため、“ここで完成”となる基準が必要です。
大竹伸朗さんは、スクラップブック作品を完成させる際、頭の中に“終了の鐘がなる”そうです。
ハッキリ終了がわかるのはさすがですし、たとえ方も素敵ですね。
これは、大竹伸朗さんならではのセンスでしょうか。
誰もが“終了の鐘がなる”とまでいかずとも、「完成」への手掛かりは、
大竹伸朗さんの制作スタイルが、十分示唆しています。
大竹伸朗さんのスクラップブックの作品は、雑誌写真や切手など、色んな印刷物が
コラージュされ、その上にドローイングが加わった作品です。
コラージュと描写は輪廻のように繰り返され、「貼る・描く」がページに集積されています。
コラージュのイメージと、描写はひしめき合い、やがて画面は埋め尽くされます。
埋め尽くされたところから、さらに取捨選択があり、全体の方向が定まり、
バランスが整ったら終了です。
大竹伸朗さんは、一回の制作で目一杯に手を入れつつ、
“これ以上、作品の質は上げられない”というポイントを把握しているのです。
この、
「もうこれ以上描いても、質は上げられない」
という状態になった時、制作の終わりであり、作品の完成になるのです。
ただし、さらに以下の3点を意識した上で、完成を目指さなくてはいけません。
・描く対象の“形状”は、途中で大きく変えない
・タッチ(筆跡の質)も途中で大きく変えない
・色はあらかじめ、完成時の色合いを決めておく
これらの点が、途中で変えても良い、となってしまうと、一作を終える基準がなくなります。
すなわち、どこまで描けば完成か、分からなくなります。
建築でいえば、対象の“形状”は、柱などの骨組み。
“タッチ”は各パーツの素材、“色”は外装や内装、といったイメージです。
どれも途中で大きく変えると、完成が危うくなります。
特に形状を変えることは影響が大きく、慎重でなくてはなりません。
上記の3点を踏まえ、作品を完成に導くためには、制作前の
「エスキース」と「ドローイング」が不可欠です。
「エスキース」で設計図を描き、
そのエスキースをもとに、「ドローイング」で完成見本を描くわけです。
そして、一つの作品の途中で、どうしても大幅に描くイメージやタッチを変えたくなることも、
あるでしょう。
そんな場合は、遠慮なく次の作品に持ち越しましょう。
一度で傑作を生む必要はないですし、次の制作へのモチベーションにすれば良いのです。