徹夜制作は傑作を生み出すか

 

展示のスケジュールに追われ、徹夜したことはないでしょうか。
私は幾度かあります。きついですよね。

徹夜とは、一日を生活し終えたまま、次の日の朝以降まで寝ない、ということです。
人は、一日に6〜8時間ほど寝るのが当たり前なため、徹夜で寝ていない体は、
“特殊な身体状況” といえます。

この徹夜という “特殊な身体状況” で制作することは、作品にどのような影響があるのでしょうか。

つまり、
「作品がよくなる」のか、
「作品が悪くなる」のか、
「どちらでもない」のか。

結論は「どちらでもない」です。

一見、徹夜という “特殊な身体状況” が「良作」や「斬新なアイデア」を生んでくれそうな
感がありますが、徹夜してもしなくても「良作」が生まれる可能性は変わりません。

むしろ、正常に思考を働かせる日常時(徹夜しない日)の方が、「良作」を生む確率は高いでしょう。

徹夜は陽の明かりがない「暗く静かな夜」であり、基本的に「眠いのに起き続ける状態」です。
この「暗く静かな夜」と「眠いのに起き続ける状態」の2つが重なるのが徹夜の特徴です。

この特徴をもって、「傑作」や「斬新なアイデア」が生まれそうに見えるのですが、
そもそも「暗く静かな夜」「眠いのに起き続ける状態」は徹夜しなくても重なりますよね。
夕食後などがそうです。

「暗く静かな夜」という特徴も、“暗い”のは外ですから直接関係ありませんし、
“静かさ”についてもテレビや音楽を消していれば成立です。

そもそも、「眠いのに起き続ける状態」というのは、意識がシャットダウンされそうな状態ですので、
まともな思考と判断は難しいでしょう。

仮に、あるアーティストは、徹夜で意識がもうろうとした状態だと、“ヘロヘロで独特なタッチ”を
生み出せるとします。
さらに“ヘロヘロで独特なタッチ”が重要な表現だと、このアーティストは判断したとします。
すると、このアーティストは “常に” 徹夜で「意識がもうろうとした状態」で制作しないといけません。

つまり、「意識がもうろうとした状態」の“別人格”で制作するということです。
別人格に任せることは、自身の人格で制作するのを放棄していることになります。
生産性も極めて低いです。

“特殊な身体状態”は、病気、ケガ、アルコール摂取、薬など様々な要因のものがあります。

“特殊な身体状況”そのものを作品化することは、可能です。
深い意味を見出すこともできます。

しかし、“特殊な身体状況”そのものを作品化するのは、“特殊な身体状況”の時ではなく、
“通常の身体状況”の時でしょう。

病気の症状が落ち着いた時に「病気の影響下の自分」を見つめる。
アルコールが引いた時に「アルコール影響下の自分」を見つめる。

しかも、人それぞれ、“通常の身体状況” に色んな特徴を抱えています。
“神経質な性格” だったり、“彩度の高い色を使わないと精神が落ち着かない” など。

作品化への要素は“通常の身体状況”にこそ、個人の特徴が表れるのです。

つまり、“通常の身体状況”の時にこそ、制作に集中しなくてはいけません。
“通常の身体状況”を維持して、いかに長時間の制作時間を確保するかが重要です。

「締め切り当日は、徹夜して8時間は制作できる」と制作を先送りしてバイトの予定を
入れるのではなく、集中できる2時間を4回以上確保すべきなのです。

徹夜は効率の悪い “スケジュールロスの帳尻合わせ” 、それだけです。

 

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