デッサンでよく見なきゃいけないのは、対象じゃありません

 

デッサンを教わる時、よく指導者が使う言葉があります。
それは、「対象(モチーフ)をよく見て描いて!」という言葉です。

対象とは、静物、石膏、人物など、あらゆるモチーフです。

描いている絵の中のモチーフの形が、目の前のモチーフと一致していない時、
「対象をよく見て描いて!」と指導されるのです。

この「対象(モチーフ)をよく見て描いて!」という言葉は、一聞、正しく思えます。
それは、よく対象を観察することで、正確な形がデッサンできる、と思えるからです。

確かに、対象の印象、構造、質感、色、などの要素をしっかり見て、対象を理解することはデッサンにおいて重要です。

しかし、「対象をよく見て理解する」のと、「対象をよく見て描く」は別物です。

ここを、一緒くたにする指導者が非常に多いのです。

実は、「対象をよく見て描く」には落とし穴があります。

「対象をよく見て描く」と、“描いている絵を見なくなる” のです。
対象を見るのに時間を割き、肝心な “描いている絵そのものを見る時間” が激減するのです。

そのため、対象をよく見て描けば描くほど、描いている絵と形が合わない。
という皮肉な結果が生じるのです。

にもかかわらず、“対象を見れば見るほど形が正確になる” と思い込んでいる指導者は、「対象をよく見て描いて!」を繰り返し言うのです。

実は、形を正確に描ける人は、「対象」ではなく、「描いている絵」をよく見ています。
「描いている絵の中の対象」が「目の前の対象」の形と一致しているか、照合するのに時間を割くの
です。

デッサン時に「対象」と「描いている絵」を見る時間の比率は、1:1が正解なのです。

指導者も、自身がデッサンする時は「描いている絵」をよく見ているのに、指導する時はその意識を失ってしまうのです。
「対象をよく見て描いて!」と言った方が、真実にせまっているようでカッコいい感もあります。

デッサンを勉強中の方は、手を動かしながら対象に見入ってはいけません。
それだと手を入れた場所を把握しきれなくなり、形は合わなくなります。

デッサン中は、マメに手を止め、しっかりと描いている絵を見ましょう。

 

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