自分が仕上げた作品というのは、
「よくできた。自分史上の傑作!」という肯定評価から、
「最悪。費やした時間とお金は何だったんだ」という否定評価まで、幅があります。
新作を描けば、過去の作品と比較するため、評価に幅が生じるのは当然ですね。
さて、自分が仕上げた作品に、否定評価をした場合について考えます。
この場合、“失敗作を捨てる”という選択があります。
“失敗作を捨てる”のは、果たして正しい選択でしょうか。
苦労して仕上げた作品を捨てるのは、主に、以下の心境に陥るからです。
・失敗作に価値がない。
・失敗作を世に出したくない(誰かに見られたくない)。
・失敗作は手元に置きたくない。
ごもっともですね。お気持ちは十分理解できます。
しかし、失敗作は捨ててはいけません。
もちろん理由があります。
それは、
・失敗作は“失敗”という結果を持っているため、貴重なサンプルになる。
・なぜ失敗なのか原因不明の時、第三者に見てもらえる。
・同じ失敗を繰り返さないよう、手元で失敗の詳細を確認できる。
アーティストは、企業が商品を売るのと同じで、PDCAのサイクルを
回して作品を改善していかなくてはなりません。
企業はPDCAによって、生産した商品の何が良くて、何が悪かったかを徹底的に研究します。
そして“わずかでも”良い商品を生み出して、売り上げを伸ばすのです。
作品にも上記の行程がないと、記憶と感覚のみを頼った改善となってしまいます。
それは非常に効率が悪い上、リスキーです。
なぜ効率が悪くリスキーかというと、記憶と感覚のみの改善は現実的な“記録”がありません。
記録がないと、良いところの再現性が維持しにくく、悪いところの再発防止が困難になります。
失敗作は、まさに失敗要素だらけで、改善への貴重なサンプルです。
また、作品のうまくいかなかった要素は自分では気づきにくいものです。
描く間に“思い入れ”が入ってしまうからです。
このように自分で分析できない時も、失敗作という“現物”もっておけば他の人に分析してもらえます。
アーティストの制作意義は、「“わずかでも”良い作品」を作ることです。
そのための、あらゆるノウハウが“失敗作”にこそ豊富に詰まっているのです。
お気づきかと思いますが、“捨てない”理由は、捨てたい心境の反対です。
そのような、心理的な抵抗の先にこそ、チャンスがあるのです。