アートとは、何らかの形で人々に “非日常” を与える行為です。
“非日常” を与えるということは、非日常の世界に人々を “招待する” ことです。
つまり、アートを鑑賞することで、人々は “非日常の空間” に “入る” わけです。
綺麗な絵画であれば、その “色彩の世界” に入る。
見たこともないデフォルメがなされた人物画があれば、その “デフォルメの世界” に入る。
目の前に、作品という “空間” があるかぎり、人はその “空間” に意識を入室させているのです。
それが、「人が作品を見る」ということの “必然性” です。
しかし、この「人が作品を見る時の必然(意識が作品の中に入る)」を、変えてしまうアーティストがいます。デンマークのイェッペ・ハインさんです。
イェッペ・ハインさんは、“鏡” を用いた作品のシリーズで、人が作品を見る時に生じる、「日常 ➡︎ 非日常(作品)」という流れを絶ってしまったのです。
「日常 ➡︎ 非日常(作品)」の流れが絶たれた作品とは、通常であれば、ただの 「日用品」です。
目の前の「鉛筆などの日用品」を見て、“非日常” の世界に意識がは入ることはほとんどないからです。
ですが、イェッペ・ハインさんの鏡を使用した作品は、「日常 ➡︎ 非日常(作品)」という流れを断ちつつ、ただの「日用品」にもなりません。
なぜか。
それは、鏡を使用しているからです。
ただし、鏡を使用するだけであれば、「日用品」です。
しかし、イェッペ・ハインさんは、鏡を加工し、“ありえない現実” をつくります。
鏡に映るゆがんだ姿の自分、正面以外の自分。
自分という存在が映る “絶対的な現実世界” に、 “現実世界の非現実” をつくってしまったのです。
“現実世界そのもの” を変えるアート。
それが、イェッペ・ハインさんの作品なのです。