最初から身につけない、という選択

 

苦労して得たものは、なかなか捨てられないものです。
それは、絵画の技術においても同じです。

高い描写力を手に入れ、その描写が評価されてしまうと、それを “変える” という選択肢がなくなります。

本来描写力とは、テーマやコンセプト上、どうしても必要な時に活きるものであって、描写力を活かすためのテーマやコンセプトを探すのは本末転倒です。

しかし人は、一度手に入れてしまうと、なかなかそれを手放すことはできなくなるのです。

そのため、最初からモチーフを正確に再現する “描写力” は身につけない、というのも手なのです。

その場合、“描写力” に替わる “何か” が必要なのはいうまでもありません。

“何か” を見つけるのは難しいように見えますが、描写力という “武器” だけ見つめている人に比べれば、他の武器は見つけやすいはずです。
コンセプトの充実に重きを置いても良いですし、色彩の豊かさに重きを置いても良いわけです。

しかも、描写力がないまま制作活動を進め、いつか描写力が必要な日がくれば、その時にでも身につければ良いのです。

特に学生時代など、若い時代に描写力を手に入れ評価されてしまうと、その武器を手放すタイミングをなくし、他の武器を手にするチャンスもなくしてしまいます。

そういう意味では、描写力を競わせることが多い美術関係の試験システムのそのものを、考え直さなくてはいけないでしょう。

そして、描写力がなかなか身につかないと悩む人は、別の武器を身につけるチャンスを得ているのです。

 





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