アーティストになるのに、美大は必要か

 

最近出版されたある書籍で、次のような趣旨のコメントが掲載されていました。

「今の時代、美大にいかなくてもアーティストになれるのではないか。現にChim↑Pom(チン↑ポム)のようなアーティストが出てきている」

確かに、Chim↑Pom(チン↑ポム)のメンバーは、既存の美大芸大を経ずに出てきたアーティストです。
(美術の専門学校で会田誠さんの授業をうけていますが。)

しかし、そのわずかな成功例をもって、美術機関での教育、あるいは教育機関そのものが必須ではない、と言い切れるでしょうか。

実は、美術機関で得られることは、想像以上に多いのです。


美術大学や美術専門学校で学べること、得られることは何でしょうか。

・絵画や彫刻、工芸を制作するための、基本的な造形技術
・教授や講師による、業界情報
・同世代で制作する仲間
・制作スペース
・学生世代を対象としたコンペティションへの参加権利
・付属図書館などの資料閲覧機会

といったとこでしょうか。

一見、技術や知識を教わらなくても、アーティストになる方法はたくさんある。
と思われるかも知れません。

しかし、上記のような点を “自前” で確保するのは、かなりの労力があります。
しかも、“自前” だと「何が必要で、何が得られるか」を知ることが困難です。

また、上記のような要素の基盤があってこそ、生まれる表現も多いのです。



「外国は日本より技術がないアーティストが海外で活躍している。だから美術機関などで技術を学ぶ必要はない」

そう思われる人もいるでしょう。
しかし、これは見落としがあります。

外国のアーティストは、技術 “以外” のことを多く学んでいるのです。
そう。日本の美大生が技術を学んでいる時間に。

Chim↑Pom(チン↑ポム)のような成功例はあります。
しかし、「反社会」「アウトサイダー」という限られたテーマの中で生き残った事例です。
その他のテーマで、美大などの教育機関を経ずにアーティストとして頭角を出すのは、なかなか難しいでしょう。

しかも、基盤がないところから出てきたように見えるChim↑Pom(チン↑ポム)も、会田誠さんの薫陶を受けているのです。
(デビューのきっかけも、会田誠さんの展示参加です。)


美術機関で学ぶ基本技術や基本的な見せ方がなくても、表現はしていける。
という意見もあるでしょう。

しかしそれは、基本技術や基本的な見せ方 “以外” で勝負するということです。
それだけ、表現の幅はせまくなります。

その基本技術や基本的な見せ方 “以外” の領域には、基本技術や基本的な見せ方を “学んだ人” もいるのです。
しかも、基本技術を保有した人が、あえて基本技術を要さない表現をするなら、それだけ表現に強い必然性もあるでしょう。

最終的なアーティストとしての表現が、“アート教育的な要素” を持たないものになったとします。
それでも、美術機関で得たことは生きてくるのです。

現代アート界で勝負していくのであれば、通り道なように見えても、美術機関などで学ぶことが重要になるのです。


 



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