「死」を作品の外に出したアーティスト

 

これまで数々の衝撃作品を見てきましたが、現代アートはこの作品を抜きに
語ることはできません。

ダミアン・ハーストさん作:『Mother and Child Divided』

現代アートをある程度見てきた方なら、ご存知の作品。
死んだ牛が一体丸々、透明の水槽に入っています。

しかし、ただ透明の水槽に入っているのではなく、
その牛は、全身を左右対象に「真っ二つ」に切断され、二つの水槽に入っています。
水槽内は、死んだ牛が腐らないよう、“ホルマリン漬け”にされています。

二つの水槽は牛の切断面が一致するように並べて置かれてあり、
鑑賞者は切断面の間を通ることができます。
しかも、真っ二つにされた牛の入った水槽は、二セットあります。
親牛と子牛の二体分です。

すごくショッキングな作品ですね。

こんな真っ二つに切断される死に方は、動物ではありえません。
食用に屠殺される鶏や牛でもありません。

ですが、この作品は“ホルマリン漬け”にされることで、

「 ホルマリン漬け = 死んだ時点の姿 」

と反射的に鑑賞者は受け入れてしまうのです。

そのため、
この牛たちは死んだ牛が解体されたのではなく、
「真っ二つ」に切断されて「死」を迎えたのだ、と感じるのです。

つまりこの作品は、主人公が過激に戦うマンガやハリウッド映画で見かける、
現実にありえない残酷な“死のシーン”を、“現物”で描いてみせています。

“死のシーン”を現物で描き切っていることで、私たちは非現実的なシチュエーションの「死」を、
現実的な「死」として強烈に意識せざるをえないのです。

ダミアン・ハーストさんは、
これまで絵画や彫刻作品の“中”でしか描かれなかった「死」を、
絵画や彫刻の“外”である現実の世界に引っ張り出すことに成功したアーティストなのです。

 


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