オリジナルへの最短距離を作ったアーティスト

 

森美術館10周年記念展:アンディ・ウォーホル展『永遠の15分』

(2014年2月1日(土)~ 2014年5月6日(火))

に行ってきました。

日本では過去最大級の回顧展と銘打つだけあって、初期から晩年まで

多くの作品を見ることができました。

アンディ・ウォーホルといえば、シルクスクリーンで制作された

『マリリン・モンロー(マリリン)』が有名です。

こうした有名作品に加えて、50年代の商業デザイナー・イラストレーター時代の

作品も見ることができます。

その頃のアンディ・ウォーホルは、「ブロッテドライン」という技法を編み出し、

独自の線を表現していました。

「ブロッテドライン」という技法は、

吸水性の少ない上にインクをライン状にのせ、その上に別の吸水性の高い紙を重ねて、

インクのラインを吸い込ませる技法です。

その後、自身でつくったスタンプにインクを乗せて転写する技術も採用し、

ブロッテドラインと併用しながら制作しています。

こうしたアンディ・ウォーホルの技法変遷も見ることができるのも本展覧会の魅力です。

アンディ・ウォーホルのコンセプトは、“既成イメージをオリジナルにする” です。

それまでのアーティストは、作品のモチーフに“既成イメージ”を用いることを

避けていました。

なぜなら、“既成イメージ”はモチーフ本来が「価値をもっている」ため、

アーティストが作品として「価値を見いだす」ことが困難だからです。

そのため、アーティストは“企業が作った特定の商品”や“特定の有名人”など

「固有性が強い」ものではなく、

“製造企業を特定できない生活用品”や“誰かわからない一般人”などをモチーフに

し、テーマをこめて「価値を見いだして」いました。

モチーフにテーマをこめて深い価値を生みだすには相当の時間が必要です。

ところが、アンディ・ウォーホルは、逆に“既成イメージ”をモチーフとして採用しました。

“既成イメージ”の強い価値を生かし、その意味を変え、オリジナリティを出すことに

成功したのです。

たとえば、作品『Sixteen Jackies(16のジャッキーの肖像)』です。

この作品は、ジョン・F・ケネディ暗殺後に報道されたケネディの妻、

故ジャクリーン・ケネディ・オナシスの写真が用いられています。

ジョン・F・ケネディ暗殺前の明るい表情と、暗殺後の悲しみにくれる表情は

当時多く報道されました。

報道に使用された既成の写真から、2つの表情を選び、1つの作品内で2つの表情を

反復して構成しています。

そこに、報道写真やケネディの妻という“既成イメージ”を扱いながらも、

時代性を帯びた“生と死”のオリジナルテーマを、くっきりと浮かびあがらせています。

こうした作品は、それまでのアーティストが避けた“既成イメージ”に近づき、

“既成イメージ”をほぼそのまま扱っています。

そのことで、アーティストがオリジナル作品を生むだすまでの距離を、

最短にすることに成功しているのです。

そしてこの、「オリジナルへ作品の最短距離を見いだす」ことができたのは、

シルクスクリーンの積極的な活用があったからです。

このシルクスクリーンにいきつくまでのステップに、

50年代の商業デザイナー・イラストレーター時代に生みだした「ブロテッドライン」

など、転写技術を育てていたステップがありました。

ささいで、目立たない転写技術を大切に育て続けた結果、

アンディ・ウォーホルの代表的な名作が生まれたのです。

小さな工夫や技術は、大きな結果に育っていく。

この事実をあらためて実感した展覧会でした。

 


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