森村泰昌さんの、自我と民族を超える旅

 

森村泰昌さんは、ポートレート写真を制作する現代アーティストです。
彼は、日本のシミュレーショニズムアートの第一人者といえるでしょう。

シュミレーショニズムとは、80年代にアメリカで広がった運動で、既成の大衆芸術のイメージを編集して作品化することです。

森村泰昌さんのシミュレーショニズムは、既成のイメージを現実の空間に再現します。
再現した現実空間に、自らが被写体となって登場し、作品は完成します。

森村泰昌さんは、大衆芸術のイメージを扱うのではなく、近代芸術を扱うところから
スタートしているのが、大きな特徴です。

彼の作品は、単純明快です。
自分自身を登場人物にして、西洋の名画を再現します。

作品は一見、ふざけているようです。
名画の仮装大賞、といった感じでしょうか。

しかし、“ふざけている” では終わらせられない作品なのです。

森村泰昌さんの作品に、ゴッホの自画像である『パイプを咥えた男』をもとに
制作した『肖像(ゴッホ)』があります。
森村さんのシミュレーショニズムシリーズのデビュー作です。

森村さんという日本人がこの作品を制作することで、
絵の中のゴッホは、東洋の日本人に差し替わっています。

絵の中の自画像が別人に差し替わり、
ゴッホ本人ではないのに、“ゴッホの自画像”というオリジナル作品と認識できてしまいます。

つまり、森村さんの“ゴッホの自画像”は、“オリジナルではないのにオリジナル” なのです。

この作品内で生じる矛盾は、鑑賞者に“自我の境界” を強烈に問いかけてくるのです。

またこの作品は、西洋絵画への挑発行為とも受け取られかねない、
すごく危険な試みでもあります 。
本物の『パイプを咥えた男』に手を加えたわけではないにせよ、
イメージ上、西洋の名画に東洋の日本人が入り込んでいるためです。

作品の登場人物についても、東洋人であるため
作品の背景や意味を見直さなくてはいけません。

しかしながら、ゴッホもまた、江戸時代の日本絵画に影響を受けています。
他の自作に「浮世絵」を引用したり、「木版画」を模写したりしています。

そのゴッホが森村の作品に影響し、引用される。
時代を超えて作品の影響が移動、循環しています。

森村泰昌さんはこのシリーズで、“様々な作品内の場所” に登場し、移動を続けてきました。
時代と民族、時に性別を超える旅をしながら、深い意味を生み出す作品を作り続けているのです。

森村泰昌さんは、今年開催される、ヨコハマトリエンナーレ2014のアーティスティック・ディレクターを務めます。
ヨコハマトリエンナーレは毎回、ディレクターの “色” が強くでます。

自我と民族を超える旅を続ける森村泰昌さんが、ヨコハマトリエンナーレで
どんな旅を見せてくれるか楽しみです。

 

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