誰もがヘンリー・ダーガーのようにはいかない

 

制作した作品を、世に一枚でも多く残したいと考えるアーティストは、多いと思います。

そんな考えを持つアーティストが、決まっていわれるフレーズがあります。

「芸術家は、死んでから有名になるからね」

良く聞くフレーズです。
励ましに受け取れますし、あきらめの促しにも、受け取れるフレーズです。

確かにゴッホなどはこのフレーズがあてはまります。
しかし、ゴッホは生涯に1枚作品が売れただけ、まだ良いほうです。

最も、このフレーズに当てはまる作家は、ヘンリー・ダーガーではないでしょうか。

『非現実の王国で』という物語を60年におよび執筆した作家です。
その量は、テキストが1万5,000ページ以上、挿絵が300枚以上になります。

この膨大な作品は、死後に発見されました。
つまり、死後に発見され陽の目をみた、ということです。

しかも陽の目をみたのは、2つの偶然があります。
作品は彼の死後、彼の部屋から発見されました。

1つ目の偶然は、その作品を発見したアパートの大家は、アーティストだったのです。

また2つめの偶然は、発見したネイサン・ラーナーというアーティストが、“ヘンリー・ダーカー” の作品を評価できたことです。

もし、作品を発見したのがアートと無関係だったらどうだった
でしょうか。
作品は処分されていたかも知れません。
なにせ、アパートの大家さんには、死ぬ前に持ち物を処分するよう伝えていたのです。

現在のように作品が世に残り、多くの人に見られていることを、本人はとくに望んではいなかったかもしれません。
ですが、彼の興味深い作品を見られるのは、多くの鑑賞者にとって貴重なことです。

さて、ヘンリー・ダーガーとは反対に、作品を1枚でも世に残したいアーティストはヘンリー・ダーガーのように、描きためたまま死んだらどうなるのでしょうか。

おそらく作品が世に残る可能性は低いでしょう。
2つの偶然が起こりにくいからです。

実際には、まず第一の関門が、残された作品を発見する家族や親族となるでしょう。
膨大な作品の処分に困った家族からは、
「天国に一緒に連れて行ってあげましょう」
と燃やされそうですね。

たとえ、家族が作品を残してくれても、保存していくのは難しいため
保存専門の場所に寄贈する必要があります。美術館などですね。

しかし、これも難しいです。
生前に発表されず、評価を受けていない作品を、美術館は簡単に所蔵できないからです。

そして行く先のなくなった作品は、結局処分されてしまいそうですね。

作品を本気で残すには、死ぬまでに、「価値」を世間に認知してもらうことが必須となりそうです。

生前に外に発表され、世の洗礼に耐え続ける作品だけが、残っていくのです。

 

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