日本の絵画作品で、一世紀以上前の作品(19世紀以前)は、たいてい “時代” がわかってしまいます。
簡単にいうと、“古さ” を感じます。
しかし、江戸時代中期の絵師、伊藤若冲の作品は異なります。
他の江戸時代の作品と異なり、時代を超えた新しさを感じることができます。
なぜ伊藤若冲の作品は時代を超えた新しさを感じることができるのか。
このことを考えることで、逆に “時代の痕跡がのこる作品の要素” が浮かんでくるのです。
伊藤若冲の作品が古びない理由は、おもに3つ。
「色」「支持体」「モチーフ」です。
一つ目に、色です。
伊藤若冲は、現代の原色に近い基本色を、多くの絵で使用しています。
使い方としては、全体を茶系やモノトーンで描き進め、ポイントとなる部分を選び、原色に近い彩度の高い色彩を用いています。
特に、彩度の高い赤はどの作品にも見られます。“若冲レッド” といいましょうか。
ニワトリのポイントとなる鶏冠が目立つよう、“若冲レッド” が使用されています。
このような “ポイントだけに強い色彩を置く” 方法は、コントラストの自由な強さ、ポイントによる視点誘導、という現代絵画で意識される要素と共通しています。
二つ目の理由は、支持体です。
これは、代表作である『樹花鳥獣図屏風』の印象がとても現代的に見えるからです。
( ◼︎ ご参考:静岡県立美術館『樹花鳥獣図屏風風』
この作品が現代的に見えるのは、下地の時点で全体を升目にしているからです。
あたかもPCのモニターで見る画面のように、ピクセルによって作品が完成しているように見えるのです。
三つ目は、モチーフです。
伊藤若冲の作品には、「人」がほとんど登場しません。
「花鳥風月」を扱い、特に鶏を中心とした「動物」が多く描かれています。
なぜ、動物ばかりのモチーフは古びないのでしょうか。
それは、“動物が衣類を着ないから” です。
動物は、人間と違い、衣類を着たり、化粧をしたり、髪を整えることはありません。
そのため、動物が存在し、人間が存在しない若冲の作品群は、時代性が欠如しているのです。
『樹花鳥獣図屏風』に見られる国内外の動物たちだけの世界。
SF映画のような、未来の可能性の一つを暗示しているようです。
以上の3つの理由により、若冲は古びない作品に見えるのです。
現代アートの作品群における、常識や共通性。
それらを意識しすぎて制作することは、“現代” というマークを作品深く刻印する、ということになるかもしれません。