“白の使い方が、プロとアマを分ける” は、本当か。

 

30年近く前の、油絵を指南する書籍に、印象的な言葉がありました。

それは、
 “白の使い方が、プロとアマを分ける” という言葉です。

日本画壇の大御所の言葉で、その言葉を読んだ当時、「そうだったのか!」と感心したのを覚えています。

その言葉が書かれて30年近く過ぎた現在、この “白の使い方が、プロとアマを分ける” という言葉は、有効なのでしょうか。

この言葉が有効かどうかを検討する前に、まずこの “白の使い方” ってどういう使い方なのか、ですよね。

この白の使い方は、“白のグレース技法” を意味しています。
グレースとは、絵の具を薄めに溶かして、もともと塗られた色が透けて見えるように、塗り重ねることです。
今でいう “レイヤーを重ねる” ようなイメージです。
…レイヤーという言葉は、Photoshopが普及した10年以上前から使われていますが。

つまり、“白のグレース技法” とは、白を “半透明” にしてレイヤーを重ねるように使う、ということです。

実際に半透明の白を、もとある色の上から乗せると、もとの色が “膜がかかった” ように透けて見えます。
もとある色が赤色であれば、白のグレースで重ねると、“ピンク色” になります。
こうしてできたピンク色は、パレット上で作られるピンク色とは違うピンク色です。

つまり、白のグレースをうまく使用することで、“白を混ぜてできる色” のバリエーションが増えるのです。

このように、“白のグレース技法” を意図的に使うと、絵画としての “色の深み” がぐっとでることになります。
“色の深み” が出るということは、それだけ絵画としての質が高まったり、表現の幅が広がる可能性を持ちます。
つまり、“プロっぽい” 表現となるわけです。


“プロっぽい” と書いたように、残念ながら30年近く前の当時も、 “白のグレース技法” を活用したからといって、プロの画家としての “決め手” にはならなかったでしょう。
しかし、当然色の深みを持たせる “白のグレース技法” を巧みにコントロールすることは、大きな差別化になったはずです。
実際、画家として活躍されている人の作品の多くに、“白のグレース技法” を活用した跡が見られます。


では、現代の絵画において、“白のグレース技法” は、大きな差別化になるのでしょうか。
残念ながら、絵具の使い方一つとっても多様化が進んだ現在では、30年近く前のような差別化にはなりません。

だからといって、現在では “白のグレース技法” にが効果がないか、というと、そんなことはまったくありません。

30年近く前も、現在も、“色の深み” がある作品が魅力的であることは変わってないからです。
そのため、絵画の色を何段階も深める “切り札” として、現在も利用できる技法なのです。


 



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