タッチの速度とモチーフの関係

 

 
世の中には、誰もが平等に与えられているものがあります。
その一つが、「時間」です。
 
そして、 “誰もが平等” と記載しましたが、人間などの生き物だけでなく、時間は「万物」に平等に与えられています。
 
 
絵画を描くときは、モチーフや対象が必要です。
ということは、そうしたモチーフや対象にも、時間が与えられているのです。
 
この事実は当たり前すぎて、意識されることがあまりありません。
 
しかし、絵画を描く人は無意識に、この “万物に与えられた時間” を表現しています。
 
 
例えば、人物画を描くとき、5分で描いたものと、5時間で描いたものとは、描き手が同じでも、まったく仕上がりが変わりますよね。
 
なぜ仕上がりが変わるのでしょうか。
 
それは、5分間手を入れた内容と、5時間手を入れた内容では、“描き込まれる量が変わる” からです。
“描き込まれる量が変わる” ということは、“タッチの総数”が変わる” ということです。
 
“タッチの総数” は、じつはモチーフ(対象)の経過時間に比例します。
時間をかけてモチーフと付き合えば、その分 “タッチの総数” が増えます。
 
逆に、一瞬でモチーフをとらえようとすれば、タッチの総数は減ります。
その減った分、タッチは少ない数でモチーフをとらえようとするため、線が長く伸びます。
 
つまり、タッチの数が少なくないということは、それだけ “長い線” で描かれています。
タッチが長ければ長いほど、短い時間が示唆されるということです。
 
 
描かれる対象やテーマに対し、 “どのくらいの時間を持っているか” を意識する。
そうすることで、タッチを選ぶことができ、表現そのもののバリエーションも増やすことが可能です。
 
一瞬の表情をとらえる…。
時間の堆積を表現する…。
 
タッチのスピード、タッチの長さ、絵画を完成させる時間。
これらを意識することが、時間の概念を表現できるのです。
 
もちろん、組み合わせも可能です。
 
スピードあるタッチによる短い時間の表現。
スローなタッチによる長い時間経過の表現。
 
これらを組み合わせ、異なる時間の進行を、絵画の中で融合できます。
 
まずは、タッチに対する意識を変え、その可能性を認識しましょう。
 
 
 
 
 
 

Comments are closed.