一般大衆の匿名性を、消失させたアーティスト

 

 
絵画において、“人物画” は永遠のモチーフです。
人のいる社会の中で、人が制作し続ける限り、“人物画” も存在し続けるでしょう。
 
 
人物画を描くには、モデルが必要になります。
 
古代から、モデルは2種類に分かれているといって良いでしょう。
 
それは、“有名人” と “一般人” です。
 
“有名人” は、古代なら神話に出る神々や哲学者、中世であれば王族や将軍、近代であれば大統領などの統治者、現代ならば芸能人、といったところでしょう。
 
一方 “一般人” の歴史は浅く、古代や中世では主人公になることはなく、近代のミレーから “農民” という一般人にスポットが当たりました。
近代以降は、様々な職業や身分や民族が、絵画の主役としてモデルにされるようになりました。
 
 
さて。
一般人をモデルにした場合、個々人の “個性” はあまり重要ではありません。
なぜなら、画家が描きたいのは一般人の概念的な特徴であって、個人の特性ではないからです。
 
戦争の影響で貧しい暮らしをする人を描写したい。
その場合、個々人の “顔の特徴” など、どうでもいいということです。
画家は貧しいながらも、“明るく生きる様子” や “絶望にふける様子” を描きたいのです。
 
つまり、現代に至るまで、一般人がモデルになるとき、個人的要素である “匿名性” はずっと維持されてきたのです。
 
“現代に至るまで” と書いたのは、この一般人がモデルの場合に維持されてきた “匿名性” を消したアーティストが現れたからです。
 
 
そのアーティストが、ジュリアン・オピーさんです。
 
 
ジュリアン・オピーさんは、一般人をメインのモデルとした絵画を制作します。
その描写は、一定の太さを維持したシンプルな線でかかれています。
背景や顔などの面も、グラデーションなどなく、明るい色面でシンプルに描かれています。
 
線も面も形も色も、極限に省略されているため、デザイン性が高く、“オシャレ” な印象の絵画です。
 
ただし、ジュリアン・オピーさんの “人物画” は歴史上の一般人の描かれ方とは異なります。
ジュリアン・オピーさんの絵画では、一般の人の匿名性は “維持されません” 。
 
なぜなら、ジュリアン・オピーさんの絵画は、モデルを “大衆化” させるからです。
 
モデルを “大衆化” させるとはどういうことか。
 
それは、どんな鑑賞者が見てもわかりやすい “アイコン的” な絵画になっているということです。
一定の太さの線や省略された絵画要素が、人物を “ポップなアイコン” に変換しているのです。
 
匿名性がある人物をポップなアイコンにする。
このことは、匿名性を担保してきた人物画を変革したということです。
 
そうした匿名性を消された一般人に混じえて、ジュリアン・オピーさんは “有名人” もモデルにします。
“すでにポップなアイコンである” 有名人を作品群に加えることで、一層 “一般人” のポップ性が高まるのです。
 
 
 
 
 
 
 

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